『マジカル・イマジネーション! ~10人の魔法使いたちの奇想曲~』
【免責事項】 この物語はフィクションです。登場人物たちの言葉や行動を参考にされる場合は、ご自身の判断と責任でお願いします。あなたにとって一番心地よいペースで、『自分らしさ』を大切にしてくださいね。
【登場人物紹介】

Tattaman:(タッタマン)
- 職業: グラフィックデザイナー
- 悩み: クライアントの「シンプルで完璧なロゴ」という、曖昧で高圧的な要求に完全に行き詰まっている。彼のデザイナーとしてのプライドと、容赦なく迫る締め切りが、今まさに崩壊寸前。
魔法使いたち(全10名)

Chima (チマ): ごちゃまぜ融合の魔法使い。あらゆるものを純粋な好奇心で混ぜ合わせる。

Flip (フリップ): 反転・裏返しの魔法使い。物事の概念や常識をひっくり返して楽しむ

Tenta (テンタ): 多重進行・やりすぎの魔法使い。何事も「やりすぎる」ほど、限界を超えて増幅させる。

Dice (ダイス): 運命と選択の魔法使い。物事の成り行きを、サイコロを振るような偶然性に委ねさせる。

Bazu (バズ): 混沌設計の魔法思想家。目の前のカオスを、難解な言葉で哲学的に分析・解説する。

Oddy (オディ): ズレ・ミスマッチの魔法使い。物事の前提や常識を、わざと少しだけズラして新しい視点を生み出す。

Mixxi (ミクシー): 感性融合の魔法使い。色、音、匂い、手触りなど、五感を混ぜ合わせて表現する。

Hazzy (ハジー): 爆発・誤作動の魔法使い。計画をわざと失敗させたり、爆発させたりして、偶発的な発見を誘う。

Gimmy (ギミー): 意味・名前の奪取の魔法使い。物事から、その本質的な「意味」や「名前」を奪い去る。

Qooa (クーア): 問いと沈黙の魔法使い。物語の最後に現れ、本質を突く問いを一つだけ投げかける。
【プロローグ:完璧という名の牢獄】
Tattaman: (心の声)完璧、完璧、完璧……。
モニターの白い画面が、無慈悲に彼の才能のなさを突きつけてくる。 グラフィックデザイナーのTattamanは、完全に思考停止していた。クライアントの言う「完璧なロゴ」とは、一体どんな形をしているというのか。
シンプルでありながら、記憶に残り、独創的で、かつ普遍的。 その矛盾した言葉の群れが、彼の頭の中をぐるぐると回り、彼を深い思考の沼へと引きずり込んでいく。
Tattaman: 「だめだ……。僕には、完璧なものなんて……作れないのかもしれない……」
彼が、マウスを握りしめたまま、うなだれて目を閉じた、その瞬間。 ふわり、と体が浮き上がるような感覚。
目を開けると、そこは無機質な仕事部屋ではなかった。
Tattaman: 「……やっぱり、来てしまったか」
そこは、概念が形を成し、常識が通用しない、創造のカオス世界「nocoMagic」だった。
【前半戦カオス ~四重奏の悪戯~】
彼の絶望的な悩みを嗅ぎつけて、4人の魔法使いたちが楽しそうに姿を現す。
Tattaman: (心の声)よりにもよって、一番厄介そうな組み合わせが来たな……。
彼の頭の中にあった「完璧な円」のイメージが、目の前にポンと光り輝きながら浮かび上がった。 それを見つけたごちゃまぜの魔法使い、Chimaが、キラキラした瞳で駆け寄ってきた。
Chima: 「わーい、まるだ!ねえねえ、この『しゃべるイチゴジャム』と混ぜてみない!?絶対にぎやかで楽しいよ!」
Tattaman: 「ジャムは喋らないし、ロゴは甘くないんだよ!」
ChimaはTattamanの言葉などお構いなしに、ジャムの瓶をひっくり返す。 完璧だった円は、ベトベトのジャムにまみれ、「たすけてー」「あまーい!」などと、か細い声で喋り始めた。
Flip: 「面白いね!『喋るロゴ』か。じゃあ、そのコンセプトをひっくり返そう!」
反転の魔法使いFlipが指を鳴らすと、ジャムまみれの円は喋るのをやめ、代わりに周囲の音を全て吸い込み始めた。魔法使いたちの声も、Tattamanの心の声さえも、円の中にズブズブと吸い込まれていく。
シーン、と不気味な静寂が空間を支配する。
Tattaman: (心の声で叫ぶ)うわ、声が出ない!というか、吸われてる!?
やりすぎの魔法使いTentaが、その静寂の中で優雅に微笑んだ。 Tenta: 「まあ、静かでよろしいですわね。ですが、一つだけでは物足りませんわ。その『音を吸う物体』を、やりすぎなくらいに増やして、空間全てを無音にしましょう!」
Tentaが扇子を振るうと、音を吸うジャムの塊が、ボコッ、ボコッと、数百個に増殖し、空間の至る所に貼り付いていく。完全な無音の世界。
Tattaman: (身振り手振りで必死に訴える)もう何も聞こえない!コミュニケーションが取れないだろ!
そこに、運命の魔法使いDiceが、サイコロを片手に近づいてきた。 Dice: (Tattamanの耳元で囁く)「ねえ、Tattaman。この中の一つだけ、音を吸う力を無くしてあげようか。どれにする?サイコロを振って、君の運命を決めてごらんよ」
Tattaman: (心の声)選べるか!というか、なんで君の声だけ聞こえるんだよ!
前半戦の4人によるカオスで、Tattamanの悩みは「音を吸い込む、喋るイチゴジャムの塊が無数に存在する、無音の世界」という、訳の分からない状況に陥っていた。
【ハーフタイム ~混沌思想家の退屈な講義~】
前半戦のカオスが一段落した、その時。 どこからともなく、カツ、カツ、と杖の音が響き、教壇がせり上がってきた。
そこに立つのは、ハーフタイムMCを務める、混沌設計の魔法思想家Bazu。 彼は咳払いを一つすると、知的な表情で語り始めた。
Bazu: 「諸君、これまでのカオスについて、中間考察を行う。まず、創造物から『音』という要素を奪う行為は、デコンストラクションにおける『現前性の否定』と読み解ける。すなわち、これは……」
Tattaman: (心の声)始まった……。世界で一番、退屈で眠くなる講義だ……。
Bazuは、Tattamanの苦悩など全く意に介さず、延々と難解な言葉を並べ立て、目の前のカオスを哲学的に分析し続ける。そのあまりの退屈さに、Tattamanの意識は遠のきそうになっていた。
【後半戦カオス ~四つの概念の暴走~】
Bazu: 「……というわけで、後半戦のテーマは『意味論的カオスの再構築』とするのが妥当だろう。では、頼んだぞ、諸君」
Bazuが講義を終えると同時に、残りの4人の魔法使いたちが姿を現した。
ズレの魔法使いOddyは、無数に存在する「音を吸う塊」を見て、にやりと笑う。 Oddy: 「なるほどね。じゃあ、この『音を吸う』という機能だけ、ほんの少しズラして、『面白い音だけを吸い込む』ようにしてみようか」
途端に、塊はBazuの退屈な講義の声を吐き出し、Chimaの楽しそうな笑い声だけを選択的に吸い込み始めた。
感性の魔法使いMixxiは、その光景にうっとりする。 Mixxi: 「面白い音だけが集まるなんて素敵!その音に、『焼きたてのパンの香り』と『ビロードのような手触り』を加えてみましょう?」
塊は、ほんのり温かくなり、美味しそうな香りを放ち、触れると高級な布のような滑らかな手触りになった。
Tattaman: (心の声)もう何がなんだか分からない!視覚と聴覚と嗅覚と触覚が喧嘩してる!
そこに、爆発の魔法使いHazzyが、いたずらっぽく笑いながら割り込む。 Hazzy: 「こんなに気持ちよさそうな塊、絶対中に何か仕掛けたくなるよな!そう、時限爆弾だ!」
Hazzyが指を鳴らすと、いくつかの塊が、チクタク、チクタク、と時を刻む音を発し始めた。
Tattaman: 「やめろー!気持ちよくて美味しい爆弾なんて、悪魔の発明だろ!」
最後に、意味を奪う魔法使いGimmyが、静かにその場に歩み出た。 Gimmy: 「Tattaman。君は『完璧なロゴ』という“答え”を探している。だが、創造に“絶対の答え”などない。だから、君の中から『答えを探す』という気持ち、そのものを奪ってあげよう」
GimmyがTattamanにそっと触れると、彼の心の中から「正解を見つけなければ」という焦りの気持ちが、すぅっと消え去っていった。
【転換:静寂の一撃】
答えを探す気持ちを失ったTattamanは、ただ、目の前の奇妙な光景を、ぼーっと眺めていた。 爆発するかもしれない、パンの匂いがする、ビロードの手触りの、面白い音だけを吸い込む、無数の塊。 それは、ひどいカオスだった。
だが、不思議と、もう苦しくはなかった。
全ての魔法が出尽くし、奇妙な静寂が訪れたその時。 締め役の魔法使い、Qooaが、彼の隣にそっと立っていた。
Qooaは、目の前のカオスではなく、空っぽになったTattamanの心を見つめ、静かに問いかけた。
Qooa: 「…………今、何を作りたい?」
【エピローグ:創造主の夜明け】
Tattaman: 「え……?僕が、作りたいもの……?」
クライアントの要望じゃない。世の中の評価でもない。完璧でも、正解でもない。 “僕が”、“今”、心から作りたいもの。
その瞬間、Tattamanの頭の中に、一つのイメージが浮かび上がった。 それは、円ですらなかった。 ただ、自由で、楽しそうで、躍動感のある、一本の線。
Tattaman: 「そっか……。作りたいものなんて、それでよかったんだ……!」
彼が、自分自身の純粋な創作意欲に気づいた時。 世界は眩い光に包まれ、彼は現実の仕事部屋へと戻っていた。
目の前のモニターは、まだ白いまま。 だが、Tattamanは晴れやかな笑顔を浮かべると、新しいファイルを開いた。
Tattaman: 「よし、まずは“僕が”最高に面白いと思うものから、作ってみよう!」
彼の指が、踊るように動き出す。 もう、その動きに一切の迷いはなかった。
( 完璧主義者の狂詩曲 了 )
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